青井陽治さんへ
「メリッサをやらせてください!」
今考えると、怖いもの知らずだなと
今更ながら震えがきます。
1992年、当時21歳の私は、
どこからくる自信だったのか自分でも謎ですが、
あの時は、ワクワク感しかありませんでした。
青井陽治さんから直筆のお手紙を貰うまでは…。
チェッカーズファンの私は、
藤井フミヤさんが朗読劇に挑戦されるという
情報を聞きつけ、観劇したのがきっかけでした。
メリッサ役は、斉藤由貴さん。
とてもリラックスした朗読で、
ほんわかムードが客席に伝わり、
大爆笑の朗読劇。
確か、樹木希林さんの場合、
もの凄く力を抜いて、つぶやくような
軽い優しい口調で、相手の言葉で傷付いても
傷付かないフリを重ねて重ねて壊れていく
メリッサを演じていた記憶があります。
後に、他の役者さんペアを観劇すると
人によっては、緊張して硬い真面目な
メリッサを演じると、客席まで
氷で張り詰めた空気になり、
同じ本を朗読されていても、
演じる方で、全然違う印象を持ちます。
私は、斉藤由貴さんとは違うメリッサを
演じたいと思い、立候補しました!!
希望が叶い、4ヶ月後には、舞台に立てました。
稽古(読み合わせ)で驚いたのは、
演出家の青井陽治さんは、優しい笑顔だけで
一切、演技指導はありませんでした。
そこで私は「私のメリッサでOKなんだ」と思い、
そのまま、舞台で朗読しました。
楽屋に青井陽治さんが優しい笑顔で
「お疲れ様」と素敵な花束とお手紙を手渡されました。
その手紙に書かれていた言葉……
「自分からやりたいと名乗りでたのは、君が初めてです。
そして、こんなに下手な女優も初めてです。」
と衝撃的な言葉から始まりました。
「演技も下手で表現力も幼稚、噛んでばかりで
声は通らず、声もいつひっくり返るかというくらい
ハラハラで見ていられなかった。」……と。
「いつか、成長した君が見たい。」という言葉で
締めくくられていました。
勘違いだらけでスタートした私は、
かなり落ち込み、
打ち上げの席も頭が真っ白で
誰にも合わす顔がなかったです。
お金を払ってきてくださったお客様にも
申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
確かに「ラブレターズ」の作品ファンの方は
呆れたのか、途中退出された人もいました。
立候補した自分を後悔しても仕切れない自分がいました。
そして、翌年、信じられない事が起こりました!!
また朗読劇「ラブレターズ」の再演の依頼が……!!
たった1年で変われずはずもなく、断ろうと考えましたが、
「下手な女優」というレッテルを貼られた私に
再度オフォーいただける真意を知りたくて、
お引き受けしました。
私なりに安易な考え方ですが、
初演は早口で憎めないあっけらかんとした
幼いままのメリッサを目指していましたが、
再演では、ゆっくりとした
少し落ち着いたメリッサを演じました。
もちろん、この時の稽古も青井陽治さんの
演技指導は一切無かったです。
自分のメリッサは、果たして愛されたのか
良かったのか悪かったのかわからないまま、
なんと、3年目も再再演のオファーをいただけました!!
私は、贅沢&おこがましいのを覚悟の上で
その時こそ、お断りをしました。
「今はまだ人生経験も未熟で、今までと違う成長した私で
メリッサを演じる自信がありません。
いつか結婚して出産して自分自身が大人に成長した
50歳頃に、もう一度演じさせてください」と
お伝えしました。
……それ以来、一度もお声はかからなかったです。
普通は、スケジュール以外でお断りをしたら、
二度と、お声はかからない厳しい芸能界なので
それは仕方がないのですが、
いつか私が50歳(2020年)になったら
また青井陽治さんに直談判して立候補させて
もらおうと密かに考えていました。
先日、テレビで黒柳徹子さんが
朗読劇「ラブレターズ」をされるというのを
お見かけしました。
ずっと大切に保管していた本を取り出し、
黒柳さんのメリッサを観たいと思い、
完売で予約出来ず、ダメ元で劇場へ行くと
当日券が運よくあったので、チケットを支払って
後ろの方で観劇しました。
約26年ぶりに観るアンディとメリッサは
何度も観劇した2人とはまた違った印象でした。
あんなに情熱的なアンディは初めてだったし、
あんなに可愛らしい甘えたメリッサも初めてでした。
パンフレットに過去演じた俳優さんの名前のリストに
私の名前もありました。
ある箇所に目が止まり、愕然としました。
演出家のお名前が、藤田俊太郎さんと記されていたのです!
急いでネットで調べると、
青井陽治さんは2017年に旅立たれたそうです(T_T)
お逢いしたかった…もう一度お逢いして、
なぜ再演の話をしてくださったのか…
再再演の依頼をお断りした私の気持ちは
伝わっていたのか…
来年50歳になる私の事を覚えていてくれていたのか…
それとも存在すら覚えていなかったのか…
あの戴いた手紙の真意を色々直接お聞きしたかったです。
50歳になれば、私のイメージする
気の強くて積極的で気持ちを
ストレートに表現する純粋なメリッサを
演じられると想像していました。
でも、現実の私は、まだ演じきれず、
きっと弱くて弱くて泣き虫なメリッサに
なってしまうと思います。
青井陽治さんの遺志を引き継がれた
藤田俊太郎さんの「ラブレターズ」は
令和以降も、次から次へと、
新しいアンディとメリッサを
産み続けていかれるんだなぁと実感し、
涙が溢れる目を誤魔化しながら
劇場を後にしました。